into the secret space

宇宙探偵アマネの冒険記

ブルー・ラーヴァ編

2 地上の楽園、天使の館

焼けつくような日差し。
船乗りや港湾労働者でごった返している。
年齢、性別も不明なマント姿の浮浪者たちが、

合間を縫って物売りやクズ拾いにいそしむ。
『埃っぽい…お肌に最悪な環境ね』

軽く息をとめ、雑踏に入るアマネ。

銃声。マントの下で、腿に吊ったデリンジャーに手をかけるアマネ。
ヘルメットに上半身をプロテクターで覆った重装備の男たちが3人現れた。
武器や装備は最新のものだ。

「来るな!!」
警備兵が追っているのはむさ苦しい身なりの男。

ブルー・ラーヴァで一攫千金を狙った密輸業者か。
男は旧型のライフルで威嚇するが、勝負は一瞬でついた。
男たちの射殺体を道の脇に蹴転がし、去っていく警備兵。
「帰りたくなってきたな…」
リキシャを拾うアマネ。

「天使館まで!」  

 

港から10分ほどの距離に、惑星一の規模を誇る娼館・天使館はある。
途中の繁華街は猥雑で汚らしく、明らかに死骸さえ見かけた。
さすがに度肝をぬかれたが、

すぐにマント姿の浮浪者チームが数人がかり運び去る。
治安は悪く、貧富の差は極端で、人は道端で簡単に命をおとす。
でも、考えてみれば先進国も同じことが起きている。
巧妙に隠されていて誰も気づかないだけ。
物騒きわまりないが、そんな空気がアマネをかえって刺激する。

「着きやしたぜ」
(リキシャは門を潜り、豪奢な館へと入っていく。
デフォルメしたロココ調の装飾を施された調度品は、

アマネの目には下品に映る。
ホールに、女体を持つピンクのゾウの巨像が直立している。
腹の部分が音もなく開くと、エレベーター。  
「ご案内します」
スキンヘッドの女が身を折る。

胸の先端とデルタをスパンコールで隠しただけの姿。
軽く会釈してエレベーターに乗るアマネ。
ガラス張りのエレベーターから街の全景が見渡せる。
丘の上に立つ、地球の中東に似た巨大建築。

『あれが宮殿。どうやって潜り込もうか…』

 

宮殿の周辺は栄えているが、その外郭は工場地帯とスラム、荒野。
かつて「楽園都市」とうたわれた首都は、

それが名ばかりのものであるという事が一目で解る。
エレベーターが止まった。ドアが開くと、ガルシアの執務室だ。
アマネが進み出ると、案内係は恭しく礼をして階下へ降りていく。

 

「時間通りじゃのう」
値踏みするような視線をアマネに遠慮もなくぶつけるガルシア翁。
年齢は60代か、翁を名乗るには若く見える。

身体も小柄だが横幅と厚みがあり、精力的。
だが、椅子の上で組んだ脚は旧式の義足だ。
「座ったままで失礼を」

ガルシアの前に立ち、フードをあげるアマネ。

栗色の髪がやわらかく肩まで広がる。
「大丈夫…ここの会話が他に漏れることはない…楽にしなさい」
ソファを勧めると一呼吸置いて話し始めるガルシア。
「御高名はかねてより…ふむ、なるほど

…確かに素晴らしい美貌を御持ちだ。
高級な…この惑星のトップレベルの娼婦にもなれましょうな」
顔をひきつらせて低い唸り声を出し笑う。

「必要なものはこちらで用意しますので…客間をお使いください。

長旅で疲れたでしょうて…」

マントは厚手だが、視線はその下まで見通すようだ。

胸や尻をじろじろと見る翁。

内心ムッとしながら、端然と見返すアマネ。

「お気遣い感謝します。

でも今回は緊急の案件なの。1秒もムダにできないわ。

宮殿についてご存知のことと、中に入る手順を教えていただける?」

 

深く息を吐き、椅子に埋まるように身体を預けるガルシア
「性急過ぎではないでしょうかね…?…ま、貴女がそう言うのなら仕方ありませんな」

カーテンがするすると閉じ、薄暗くなる部屋。
壁一面に宮殿の内部資料が映し出される)
「あそこは陸の孤島。侵入者がもし入れても、

出ることは至難の技でしょうて
…入る方法なら…この儂が持っていますが」

(男の写真が新たに表示される)
「彼はうちの顧客。宮殿内の経理担当官で…週に二度、男の娘を買いますのじゃ…」

(また、いやらしい笑み)
「それも上物の…むっちりとした四肢の男の娘を」  

気づくと、またアマネの身体を凝視している。

マントの下が本当に見えているかの様だ…視線は体中を這う。

無意識に腕を組み、胸を覆い隠すアマネ。


「それが私ってわけね。大丈夫なの?この男。

ちょっと頼りなさそうだけど…」
ニヤリ、と相好を崩すガルシア。目は笑っていない。
「ご安心を。この男は“部屋の鍵”ですじゃ。
『商品』はこちらから届けているので

宮殿の門まではうちの護衛がお供をしましょう。
こちらが協力できるのは、そこまでですが…」

ルゥが肩から執務机に降り、

カタカタと身を揺すりながら内部資料をダウンロードする。
「娼婦の証言を元に作った内観と外からの数点の写真…これを集めるのにも、儂が苦労したと言えば今回の任務

…どれ程のものか解りましょうな?」  

連邦議会に代わって礼を言うわ」
そっけなく言いながら一束の高額紙幣を取り出すアマネ。
耳をそろえ机に置く。
ふと、モニターの画像に目が釘付けになる。

「待って!」
宮殿の中庭を移した画像。数人のグループの中に、見覚えのある顔。
『Sだわ…間違いない』
「この男は…何者か知ってる?」
「さぁて…最近入国してきたようですが…

宮殿に出入りできる民間人はごく一部。
技術者か、使用人か…そんな風にも、見えないが」
さすがのガルシアも首をかしげるばかり。

『Sもブルー・ラーヴァの秘密を嗅ぎ当てたのね…』

エレベーターが昇ってきて「供」を連れてきた。
若く、真面目そうだ。ガルシアに比べると聖職者のように見える。
胸騒ぎをおさえ、微笑みかけるアマネ
「アマネです。よろしく」